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2011年の「台日オープンスカイ」という航空自由化協定改定に伴い、来台日本人旅客数が大きく成長する流れが生まれた。それに応じて、航空会社はキャビンアテンダント(以下CAと略す)への訓練コースにおいて日本人乗客への言語サービスとして12時間ほどの日本語訓練を行っているが、日本語能力の有無を問わずCA全員がコースに参加することになっている。コース修了後に日本語再研修コースは設けられておらず、同研修は新人CA向けの1回限り、限られた時間数の中で、機内のあらゆる場面の日本語を習得することが求められるという大きな矛盾を内包していると言わざるを得ない。\n 筆者はCAとしての勤務経験を通して、多くのCAが社内の日本語訓練コースを受けたにもかかわらず、日本語で業務を遂行する様子があまり見られない現実に、CAのための日本語研修の背景に何があるのか、様々な疑問を抱くようになった。一方、CAのための日本語教育をJSP教育として見た場合、学習目的、学習ニーズ、時間等の要素には一般的の日本語教育とは異なる特徴があることが分かる。\n そこで、筆者はCA段階における日本語教育の現状や現役CAのための日本語コースを構築するため、本研究で以下の課題を取り上げ明らかにする。\n1)現状調査:台湾と中国におけるJSP研究動向および「候補CA」、「新人CA」段階の日本語教育における学校教育、既存教材等の現状を把握する。\n2)「現役CA」のための日本語コース構築:「現役CA」段階を中心にした日本語コースを構築するため、ニーズ、オンライン日本語教材、また、必要な言語知識について明らかにする。\n 現状調査結果では、次のことがわかった。まず、台湾であれ中国であれ、JSP研究では主に「学術」、「商業」、「観光」を中心にしており、「航空」のJSP研究本数は僅かであることが挙げられる。また、「候補CA」段階の「航空日本語科目」では「言語」「非言語」学科を問わず各学科ですべて自由選択であり、核心科目になっているとは言えない。「非言語学科」では、「日本語+ α」というより「英語+ α」の傾向があり「言語学科」では「日本語+ α」を教育方針としているが、航空日本語科目は「α」の中で唯一の科目ではない。また教師の専門性や業務経験の有無などの背景により教材の選定が左右されることなど、業務当事者の関与が教育に影響を与えている。\n 次に「新人CA」研修で用いられる『日本語の学習』という日本語訓練教材を分析した結果、全体構成は「トピック」と「付録」だけの大項目によって構成されており、「トピック」ごとにいくつかの「単語」、「重要表現」、「会話」の小項目を配置しているが、トピックによってはすべての小項目が含まれるわけではないことがわかった。単語の配置から見ると、N5・N4の単語レベルが多く占めているが、N3から、N1レベルさらに試験級外までの広がりが各トピックに散見される。文法学習では「いかがですか」「~を、~ください」の文型表現の出現頻度が多くを占めている。『みんなの日本語』と対照すると、文型表現の学習順序は積み上げ式ではなく、場面を優先してランダムに配置する特徴が現れている。発話機能では、「聞く」「話す」能力が求められるものの、教材には「尋ねる」と「返事」、「声かけ」機能の出現頻度が高く、CAの教材では「尋ねる」、「返事する」、「声かけ」といった限られた発話機能に集中しているのが特徴とも言える。\n 一方、「現役CA」段階の「ニーズ調査」では、当時未習者だった協力者にとって、新人CA日本語訓練コースの印象は、「暗記」、「平仮名が書きにくい」、「五十音は全然だめ」等の苦痛の記憶が多いものの、「訓練効果」に対してはある程度効果があると述べている。「継続学習動機」では、現役CAが単に「機内」という公的場面でなく、「旅行」、「ドラマ鑑賞」という私的場面でも日本語との接触があって、日本語ニーズの学習動機が生じている。そして「コースへの期待」では、「宿題」、「テスト」の配置の必要性では協力者の意見が分かれていた。\n 以上の結果から明らかになったのは、CAのための日本語教育は、職務経験の段階によって、「候補CA」「新人CA」「現役CA」に分類することができ、それぞれに特色や課題があることである。まず「候補CA」段階では「航空日本語」科目の自由選択履修、教師の専門領域や実務経験などが、CAのための日本語教育への構築や研究に影響を及ぼしていることが挙げられる。「新人CA」段階で用いる社内研修の日本語教材には、一般的教材の構成や単語、文型表現の配置とは異なって、専門日本語つまり機内サービス場面である特定の日本語表現を配置しているのが特徴ともいえる。しかし、日本語未習の新人CAにとっては、限られた時間にあらゆる日本語表現や単語を習得し、すべてに対応するというのは容易ではない。\n 一方、「現役CA」は日々業務現場で現実の日本人や日本語に触れているだけでなく、業務経験が長くなるにつれ、業務の一環で日本に滞在する機会も増え、「公的」、「私的」の様々な場面で日本語使用経験を持つ。それを通して総じて継続学習ニーズが高い。ただし、「現役CA」のための日本語コースはなく、その構築についての調査では、コースでどのような学習方法をとるか、意見は個人により分かれている。\n さらに、「現役CA」という職業について考察を深めることができる。この職業は国境を越えて業務を行い、その結果、機上だけでなく訪問先滞在(公的勤務、私的滞在)も含まれ、そこで外国語使用を経験する。英語を中心とする複数の外国語を駆使する複言語使用者であり、言語能力を駆使して乗客へのホスピタリティを提供するという点で、職業的の自尊心(矜持(中国語訳:虚栄心))を醸成することもある。複数の外国語のうちの一つである日本語についても、多様で現実的な日本語使用の場面(読み書きや会話、方言、待遇表現など)と出会っており、業務上の時間を経るとともに日本語の経験も積み重なっていることから、継続学習への動機は高い。しかし、CAという職業は時間的に非常に不規則で、常にシフト調整があり、世界各地への移動が伴う勤務体制の特徴性が目立つ。その結果、定期的、継続的な「学習」は困難になっている。\n 以上のように、CAのための日本語教育は一般的の日本語コースと異なり、学習目的、期間等の項目にJSPの特徴性があり、「候補CA」「新人CA」「現役CA」の段階的ごとに教育の取り組み方が異なっていることがわかる。同じCAのための日本語教育とはいえ、教育体制やコースの枠組等の配慮は段階ごとにすべての条件が同一というわけではなく、とりわけ「現役CA」段階では、学習者中心の立場からニーズ調査を行うことにより、「候補CA」、「新人CA」との明確的な線引きとすることができる。ただし、段階ごとに様々な課題も指摘されなければならない。たとえば、「現役CA」段階のニーズ調査を行ったが、その実践には「いつ」「何を」「どう」教えるのかといった具体的な設計についてコース構築では再検討しなければならない。これらの問題を今後の課題として探求していきたい。","subitem_description_type":"Abstract"}]},"item_10006_dissertation_number_12":{"attribute_name":"学位授与番号","attribute_value_mlt":[{"subitem_dissertationnumber":"甲第211号"}]},"item_10006_identifier_registration":{"attribute_name":"ID登録","attribute_value_mlt":[{"subitem_identifier_reg_text":"10.14993/00002478","subitem_identifier_reg_type":"JaLC"}]},"item_access_right":{"attribute_name":"アクセス権","attribute_value_mlt":[{"subitem_access_right":"open 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